ファクトチェックとは、記事に書かれている内容(情報)が事実であるか確認することです。「校閲」の作業に該当します。
インターネット上には、事実と異なる情報が溢れています。上位に表示されている記事だからといって、掲載されている情報がすべて正しいとは限りません。
情報が誤っていることに気づかず、上位記事を参考にして記事を書く。そして、また誤った情報を発信してしまう……。そんな連鎖をたくさん見てきました。
上位10記事のうち半分以上が、誤った情報を掲載していたケースもあるほどです。
校正・校閲の仕事を始めてからたくさんの記事を編集するようになり、ファクトチェックができていない記事の多さに驚いています。
少し専門的な分野の記事の場合、2~3記事に1度は大きなミスがあることも多々。ほんの少し言葉を間違えるだけで、まったく違う意味の文章になってしまうため注意が必要です。
この記事では私自身の経験をもとに、Webライターがやりがちなミスや、事実と異なる情報を書かないための注意点を紹介します。
ファクトチェック時によくある修正ポイント
誤った情報の発信は、信用問題に関わります。Webライターとして納品する記事であれば、被害を被るのはメディアを運営するクライアントです。
まずは、ファクトチェック時によくある修正ポイントから確認しておきましょう。
1:情報の不一致
情報の不一致は、以下のような方に多いミスです。
- 速さを重視する
- リサーチに時間をかけない
- 読解力がない
- 文章力がない
正しい情報であるかを精査せずに、上位2~3サイトを読むくらいで執筆する方もいます。
上位記事の情報が正しいとは限らないため、非常に危険です。最終更新日が数年前の記事だと、今では制度や料金が変わっていることもあります。
また、コピペを意識して文章を並び替えたときに、意味が変わってしまうケースもかなり多いので注意しましょう。
例えば以下のNG例は、実際に私が何度か修正したことがあるパターンの見本です。何がNGなのかわかりますか?
正しい内容:A商品は、1900年に田中太郎さんが依頼したことがきっかけで開発されました。
NG例:A商品は、田中太郎さんが依頼したことがきっかけで1900年に開発されました。
正しい内容というのは、公式サイトに書かれている情報と考えてください。
正しい内容では、A商品は「1900年に依頼された」とされています。開発されたのがいつなのかは書かれていません。
しかし、NG例では「1900年に開発された」となっています。ここが修正ポイントです。
校閲時のファクトチェックでは、こういったポイントを確認します。特に年号や数値、手順など、正解のある基本となる情報は信頼できるサイトで確認するのが必須です。
ちなみに今回の例の場合、公式サイトで確認すると開発されたのは数年後でした。企業のメディアで誤った情報を伝える手前で気づけたのは「校閲」の作業があったからです。
記事が公開されるまでの仕組みによっては、編集者やディレクターがここまでチェックしないケースもあるでしょう。
そう考えるとちょっと怖いですよね。
2:不適切な「基本的に」「一般的に」「ほとんど」の使用
- 基本的に
- 一般的に
- ほとんど
上記の言葉が出てきたときは、「本当に?」と疑うようにしています。
人によって基準があいまいだったり、何となく癖で使っていたりするケースも多いため注意が必要です。
基準となるデータを確認すると、全体の50%程度で「一般的に」「ほとんど」を使っていることがあります。
考え方の違いはあるかもしれません。でも、さすがに全体の半数程度で「ほとんどの人が使っている」というニュアンスになるのはおかしくありませんか?
70%を「ほとんど」と感じる方もいれば、90%くらいじゃないと「ほとんど」の基準を認めない方もいるでしょう。
安易に使うと勘違いが生じやすい言葉なので注意しましょう。
3:不適切な「など」の使用
「○○や△△など」と、よく使われる「など」という言葉。癖で使っている方がかなり多い言葉の1つです。
正しい内容:A商品はBとCを使って作られました。
NG例:A商品はBとCなどを使って作られました。
正しい内容で「BとCを使った」と記載されているように、A商品を作るために使われた材料は2種類しかありません。
しかし、NG例で「など」が入ることによって、ほかの材料も使われているという意味で伝わってしまいます。
同様の修正は意外と多いため、癖で使わないようにしましょう。
4:根拠が明確でない断定表現
「~できます」と断定する表現を用いるときは、本当に断定してよい情報であるかを確認することが大切です。
以下のように、ほんの少し伝え方を変えるだけで意味が大きく変化します。
- ~できます
- ~できるでしょう
- ~できる可能性があります
例えば、公式サイトでは「~できる可能性がある」と書かれているのに、執筆時に「~できます」と断定するのは間違いです。
逆に「~できます」と断定されているのに、「~できるでしょう」と執筆者の推測として書くのもおかしいですよね。
こういった部分も、校閲時にチェックするポイントです。
このパターンでやってしまいがちなのが、語尾の調整によって伝わり方がおかしくなってしまうこと。「~できます」だと語尾に「ます」が連続するからといって、「~でしょう」に変えるといった調整です。
意外と多い修正ポイントなので注意しましょう。
もし「~できます」の語尾を調整するなら、「~が可能です」「~できるのが特徴です」など、ニュアンスが変わらない形で表現を変える必要があります。
なお、今まで関わったクライアントのなかには、執筆時のルールとして「断定しない」としているケースもありました。執筆時には「~できます」と断定してOKなことでも、数年後にどう変化しているかわからないからです。
ブロガーなら自分のタイミングでリライトできるため、執筆する時点で断定できるものは断定してよいでしょう。
しかし、Webライターに執筆を依頼する企業の場合は、自社で修正するか、リライトとして再度依頼するしかありません。
Webライティングでは「断定して言い切ることが大切」とよく言われますが、ときには誤解を生じるケースがあることも理解しておきましょう。
5:根拠が明確でない最上級表現
- 日本初
- 唯一の
- 人気No.1
- ○○で1番
- 断トツ など
上記のような、最上級表現に該当する言葉を用いるときは注意が必要です。
近年では、根拠のないNo.1表記の取り締まりが厳しくなっています。たとえ公式サイトで書かれていても、それが適切な方法で調査されたデータであるとは限りません。
「日本初の」「令和4年度の最優秀賞」など、歴史的に変化しないものはOKです。それ以外は公式サイトに書かれている場合でも、疑う癖をつけましょう。
現時点では「日本で唯一のもの」かもしれませんが、今後どうなるかわからないという問題もあります。
簡単にリライトできない情報は、「2024年6月時点」といった注釈を入れる対策も必要です。
実際に「日本で唯一の」と紹介されていたものでも、それが古い情報だったことがあります。気づかずに執筆されていたため、校閲時に修正を行った事例です。
6:単純な間違いによるミス
- 数字を書き間違える
- 固有名詞の表記を間違える
- ことわざや慣用句の意味を勘違いする
- 適切な接続詞を使っていない など
単純なミスによる修正はよくあるので、納品前(公開前)に見直すことが大切です。私もうっかりやってしまい、指摘されたことがありました。
数字や固有名詞は注意深く見ることで解決する問題ですが、ことわざや慣用句は気づかずに使っている方が多いため注意しましょう。
以下は、間違いやすい慣用句の例です。
役不足
OK:実力に対して与えられた役目が軽すぎる
NG:与えられた役目に対して実力が不足している
気が置けない
OK:相手に対して気配りや遠慮をしなくてよい
NG:相手に対して気配りや遠慮をしなくてはならない
なかには「敷居が高い」「煮詰まる」など、時代とともに使われ方が変化し、許容されている言葉もあります。
しかし、記事を読む人によっては「この記事は正しく文章を書けていない」と判断される可能性もあるでしょう。
特に企業のメディアで執筆する場合は、そういったリスクに配慮する必要があります。
「自分の使い方が正しいのか?」と疑う癖をつけて、断言できない場合は調べることが大切です。
7:必要な情報の不足
文字数制限がある場合、文字数を意識しすぎて重要な情報がカットされていることがあります。
例えば、商品についての使用手順を説明する文章を300文字程度で執筆しなければいけないとしましょう。
しかし、公式サイトを見るとどう頑張っても300文字では収まらない。そんな状態のときに、自分の解釈で短くしてしまうことがあります。
もちろん、文章を短くしてもおおよその手順が正しく伝わるのであれば問題ありません。
私が修正したケースでは、手順と一緒に書かれていた大切な注意点が省略されていることがありました。「絶対に○○を使用しないこと」と、その情報を伝えなければ気づかずにやってしまいそうな人が多発しそうな部分です。
「できる限り指定された文字数で終わらせたい」といった感情が優先されるのでしょうか?
その心理はわかりませんが、校閲をしていてかなり危険を感じた文章でした。編集をするだけでは気づかないでしょう。
事実と異なる情報を書かないための注意点
誤った情報の発信が拡散されれば、炎上リスクをともないます。過去には誤った情報を信頼し、事故につながったケースもありました。
ほとんどの方は「お金のため」に記事を書いていると思いますが、情報発信を行う責任感をもつことが重要です。Webライティングを行うすべての人が、どんなことに気をつけるべきなのかを知っておきましょう。
1:基礎的な文章力を身につける
Webライターもブロガーも、基礎的な文章力がなければ正しく文章を書けません。その結果、イメージしていた内容と異なる解釈で伝わってしまうことがあります。
たとえ初心者でも、基礎的な文章力を身につけることを怠ってはいけません。
どんなに読解力があっても、適切な文章を書けずにうまくまとめられない方がかなり多い印象です。ファクトチェック時の修正では、このパターンがもっとも多いように感じます。
てにをはや接続詞を間違えれば、真逆の意味で伝わることもあるでしょう。コピペを意識して文章を並び替えたときは、特に注意が必要です。
正確な情報と異なる内容になっていないか、注意深く確認しましょう。
2:信頼できるサイトの情報を参考にする
上位記事だからといって、情報が正しいとは限りません。上位記事では構成や訴求方法を参考にしつつ、正しい情報であるかは信頼できるサイトで確認しましょう。
信頼できるサイトの例は以下です。
- 政府が公開する情報
- 公式サイト
- 専門分野とする企業が発信する情報
記事内にデータを含めたい場合は、政府統計ポータルサイト「e-Stat」や経済産業省の「統計」などが役立ちます。
企業の情報を参考にするなら、専門分野を仕事にしている企業を選びましょう。具体的には、医療の情報なら病院の記事、栄養に関する解説なら健康食品の開発に携わっている会社の記事などです。
Wikipediaや個人ブログは信頼性に欠けます。個人ブログで個人の感想を参考にするのは良いですが、商品に対する情報はきちんと公式サイトで確認しましょう。
3:いつの情報かを確認する
企業が発信している情報で信頼できる場合でも、数年前の古い情報が掲載されていることがあります。公開日や更新日を確認し、信頼してよい情報であるかを判断しましょう。
特に統計データや料金などの数字が書かれている記事は、現在の状況と大きく異なる可能性があります。数値に大きな変化があれば、そこから推測できる情報も変わってくるでしょう。
引用されている情報が古い場合は、直近で同じようなデータが公開されていないか検索してみるのがおすすめです。
私はよく「○○調査(調査書名) 2024年」「厚生労働省 ○○調査」などと検索しています。PDFのデータを探したい場合は、検索キーワードと一緒に「filetype:pdf」と入れてみてください。
4:リサーチは時間をかけてていねいに行う
記事を書くときは、執筆よりもリサーチが重要です。
情報の選別が正しくできないと、誤った情報が多く、薄っぺらい記事になってしまいます。時間をかけてていねいに行いましょう。
その際、上位記事だけを参考にすればよいわけではありません。
信頼できるサイトで情報確認を行うことや、さらなる深掘りをしてほかの記事と差別化できる情報を提供する必要があります。
しかし、残念ながらリサーチが疎かになり、正しい情報の選別ができない方が多いのも事実です。深くリサーチをしないため、誤った情報に気づかないまま執筆をしてしまいます。
「少しでも速く終わらせよう」と考える方ほど、ファクトチェック時の修正が多くなりがちです。このタイプは、誤字脱字が多いのも特徴として見られます。
執筆時間を短縮しようと工夫や努力をするのは良いですが、リサーチで速度を意識しすぎるのはおすすめしません。
なかには「どこまでリサーチしていいかわからない」「時間がかかりすぎてしまう」といった声もよく聞きます。
まずは読者のゴールを明確にし、そのために必要な情報が何なのかを考えることが大切です。
例えば、商品の使い方を紹介する記事で、使うときの注意点やコツが書かれているなら関連性があります。でも、商品のメリットが書かれていたら少し違和感がありませんか?
キーワードを軸として、読者が求める情報は何なのか、どんなゴールだと満足してもらえるのかを考えましょう。
5:最終チェックでも事実確認を行う
サービス名や数値、利用手順など、事実と異なると大きく信頼を損なう恐れがある部分は、納品前に特に注意して確認することが重要です。
まずは一気に書き上げて、最終チェックで文章を修正する……という方法をよく聞きますが、そこにファクトチェックも含めてください。文章の流れや誤字脱字を中心としたチェックでは、情報の誤りに気づけません。
意識してファクトチェックをしていない方がかなり多いため、校閲時の修正がなかなか減らないのです。
特にブロガーはほかにチェックしてくれる人がいないため、事実確認は慎重に行いましょう。
6:企業が確認できない情報があることを知る
専門分野で執筆する場合、最終的なチェックはメディアを運営する企業が行ってから公開するケースもあります。だからといって、Webライターとディレクター(編集者)のファクトチェックが疎かになってはいけません。
執筆した内容によっては、企業側で確認できないこともあります。
例えば、商品やサービスについてのチェックや、専門分野の技術などは業界関係者が確認できる部分です。
しかし、「○○の歴史」といった内容が含まれる場合は、その年号や歴史まではチェックできないでしょう。専門分野に携わる人でも、日常的に携わる範囲以外は知らないことが多いのです。
「チェックしてもらえるからいいや」という考え方は危険なのでやめましょう。
7:文字数よりも事実を伝えることを意識する
「7:必要な情報の不足」で、文字数制限によって必要な情報がカットされるケースがあるとお伝えしました。
文字数制限があると簡潔に伝えることを意識しがちですが、優先すべきなのは”正しい情報を伝えること”です。忠実に文字数を守ろうとする方がいますが、賢明な判断とはいえません。
文字数を意識しすぎると、本来の意味と異なる情報になったり、大事な部分が抜けたりする恐れがあります。
もしも正しい情報を伝えるために文字数がかなり多くなりそうであれば、その旨をきちんと伝えれば大体OKしてもらえるでしょう。
多少文字数が増えるくらいなら、自分の判断でコメントを残しておけば問題ないことがほとんどです。
忠実に守るべきなのは、正しい情報を伝えること。文字数は1つの目安に過ぎません。
8:編集時は「何を伝えたかったのか」を考える
ここは編集者に向けたメッセージです。今後編集者を目指している方は、確認しておきましょう。
Webライターが執筆した記事を編集する際に、本来の意味と異なる文章になってしまうケースがあることも覚えておきましょう。「何を伝えたかったのか」をイメージすることが大切です。
例えば、ライティングに慣れていないWebライターが、以下のような文章を提出したとします。
例
A商品はコンパクトで使いやすく、耐久性に優れており、高齢者からも「操作しやすい」と人気です。BC-Xが搭載され、ほかの機種よりも進化しているのが特徴です。今後は全国展開していく予定です。
なかなか情報が詰まった文章ですね。正直、Webライティングに慣れていないと、このような文章になることが結構あります。
何となく伝えたいことはわかるものの、まずは「です」の3連続をどうにかしたいところです。
次に気になるのは「高齢者からも」という部分。「~からも」ということは、人気があるメインの層がほかにあるのでしょうか?比較するターゲットが明確でないと、使い方としておかしい部分です。
もしくは、「高齢者から人気がある」と書きたかったのに、無意識で「も」が入っているのかもしれません。そうなると意味が変わってきますね。
さらに「ほかの機種よりも進化していている」という表現はかなり抽象的です。「ほかの機種」が何を指すのでしょうか?自社商品の同モデルなのか、他社の類似商品なのかがわかりません。
こういったときにファクトチェックが必要になります。
ただ文章だけを見て編集をすると、本来伝えたかったことと意味が変わってくるケースがあるのです。
本来は以下の文章が正しいとしたら、少し意味が変わってくるのがわかりますか?
例
A商品はコンパクトで使いやすく、耐久性に優れています。特に高齢者から「操作しやすい」と人気です。また、BC-Xが搭載されたことにより、他社の類似商品よりも処理能力が優れています。大きな進化を強みにし、今後は全国展開を視野に入れているようです。
安易に編集するのではなく、「何を伝えたかったのか」を考えましょう。